2011年3月3日木曜日

Barroquejón『Concerning the Quest the Bearer and the Ring』(2003)


 南米チリのマルチ・コンポーザー デヴィッド・ハヌスによる一人シンフォニック・プログレ・プロジェクト:バロックエジョンの1stアルバム。トールキンの「指輪物語」をコンセプトに、デヴィッド氏が全楽器&コーラスを一人で担当して作り上げた作品で、彼のマルチな才能を存分に発揮したトータルアルバム。管弦楽器類を前面に出した、ほぼギターレスのシンフォニックなアンサンブルと、迫るようなテンションの高さをひしひしと感じさせる多重クワイアコーラス、トラディショナルなメロディを織り込みつつ、息をつかせずに押しまくる楽曲は耳を惹くことこの上なく、そのドラマティックな作風は、さながらストーリーテリング的な方向性を打ち出していた『Nightfall In The Middle Earth』の頃のBLIND GUARDIANと、QUEEN直系の多重録音コーラスと溢れんばかりの瑞々しいセンスを巧みに絡めて楽曲を彩っていた『GAIA』の頃のヴァレンシアを髣髴とさせられます。若干打ち込み臭さが抜けない部分や、やや一本調子な楽曲展開など、少々パンチに欠ける面や荒削りな面もありますが、それを補って余りある魅力と才気に溢れており、ファンタジックなサウンドトラック作品と考えれば申し分ない内容です。

 本作発表後、2ndアルバム『Songs For Her』をリリースするというアナウンスがあったのですが、制作途中でデヴィッド氏が急性白血病であることが発覚。治療に専念するために、『Songs For Her』のリリースは頓挫となります。その後、長期に渡って闘病生活を続けたものの、2009年2月9日に若くしてこの世を去られてしまいました。享年29歳。彼が制作に着手していたというアルバム『Soundtrack To My End』は、『Songs For Her』の楽曲も収められる予定だったのですが、未完となってしまいました。訃報に際し、デヴィッド氏と親交のあったフランスのエピック・メタル・バンド FAIRYLANDのフロントマンであるフィリップ・ジョルダノ氏は、追悼のコメントを寄せておりました。BarroquejonとFAIRYLAND、両者の作風には相通ずるところが非常に多かっただけに、盟友とも呼べるデヴィッド氏の急逝を知ったフィリップ氏の心中は察するに余りあります。今後の成長ぶりを期待させてやまない音楽性を展開していた人だっただけに、あまりにも残念でなりません。改めて、哀悼の意を表します。


未完のアルバム『Songs For Her』『Soundtrack To My End』に収録される予定だった楽曲。


デヴィッド氏もメンバーとして在籍していたチリのメロディック・ポップ・ロック・バンド:Lo que Queriaのライヴ映像。中央のスキンヘッドの人物が彼。

Barroquejon:MySpace