2012年12月30日日曜日

2012年 個人的おすすめ本20冊

2012年の個人的おすすめ本20冊を選びました。だいたいSFとエロと奇想とホラと冒険と肉で構成されています。あと今年は「本を読む」というよりは「本を浴びる」といった方がいいんじゃないかというくらいにあれやこれやと乱読いたしました。もうちょっと落ち着いて本を読めよと自分を戒めたくなったことも何度もありましたが、まあ、若気の至りということで。

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1位:
本にだって雄と雌があります本にだって雄と雌があります
(2012/10/22)
小田 雅久仁

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ある人がエッセイで「積本が増えるのは知らないうちに本同士が交わって子を生んでいるからだ」と冗談を言っていたが、本作の掴みもまずそこにある。生まれ出る「幻書」もろとも蔵書を肥やし続ける祖父、深井與次郎の逸話を話題の中心に、夢も現もない交ぜでユーモラスな語りが続いてゆく。家族との関係、妻ミキとのなれそめエピソードを内包しながら、奔放な語りはファンタジックに跳躍していき、ついには本読みにとっての桃源郷にまで届く。単なる大法螺の枠を越え、読者にまで多幸感をもたらしてくれる、正に読者冥利に尽きるファンタジーノベル。メガテンの悪魔合体よろしく生み出される「幻書」(エンデ『はてしない物語』とサルトル『壁・嘔吐』から生み出される『はてしなく壁に嘔吐し続ける物語』という脱力もののアホらしさ!)のエピソードしかり、書に憑かれた祖父のセリフしかり、細かい部分のネタがもの凄く心をくすぐる。久々に最後までページをめくる手とニヤニヤが止まらなかった。饒舌な語りと大小さまざまな情報量の渦巻いた作品に自分が弱いというのもあるけど、ホロリとくるエッセンスもあってホント良い。今年ピカ一の印象。


2位:
いま集合的無意識を、 (ハヤカワ文庫JA)いま集合的無意識を、 (ハヤカワ文庫JA)
(2012/03/09)
神林 長平

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短編集といっても、濃密な読み応え。総合ネットワークの発達により、パーソナルコンピュータが純粋に<パーソナル>ではなくなりつつあるということをほのめかす「ぼくの、マシン」は、『戦闘妖精雪風』のテーマである「機械と人間の関係」も織り込みつつ、深井零のキャラクターも掘り下げた見事な『雪風』シリーズのスピンオフ。現実と仮想の自己意識の乖離が引き起こす戦慄を描いたサスペンスSF「切り落とし」、人類の存亡を賭けたゲームの駆け引きの果てに多世界解釈世界を突き破るスペースオペラ「かくも無数の悲鳴」も目を引く。そして圧巻の表題作である。某<さえずり>に触れてみての印象を綴ったエッセイかと思いきや、突如ネットワーク上に出現した亡き伊藤計劃氏との仮想対話を繰り広げるという<フィクション>を展開し、『ハーモニー』の考察から意識とフィクションの関係、そしてこれからのあり方を問う表題作は、その心憎い趣向もさることながら、意識、機械、コミュニケーション等の数多のテーマと共にSFを書き続け、戦い続けてきた神林氏の矜持も垣間見えてくる。より先鋭化を辿るコミュニケーションの時代の中で何となく感じていた違和感を、本書は浮かび上がらせてくれた。


3位:
マインド・イーター[完全版] (創元SF文庫)マインド・イーター[完全版] (創元SF文庫)
(2011/11/19)
水見 稜

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時間を忘れて最後まで一気読み。精神・肉体を蝕むM.Eの脅威との関わりを通して、人間や生命そのものに対する内面的な問いへと最終的に繋がっていく連作短編集。八編にストーリー上での繋がりはないが、読み進めていくことで、それぞれの内奥にあるテーマの有機的な繋がりを感じられる。人類に対する謎の脅威「ジャム」を描く神林長平氏の『戦闘妖精雪風』シリーズとはまた違ったベクトルでの思弁と実験、そして容易に答えの見つからない問いへの追求が展開されている。『雪風』と本作とを様々な面で比較しながら読んでいる人も多いのではないだろうか。


4位:
中二階 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)中二階 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)
(1997/10)
ニコルソン ベイカー

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図書館で何とはなしに手にとってみたが、これが大当たりであった。滅法面白い。重箱の隅を突くがごとき細か~い視点で、ひたすら日常生活のたわいもないアレコレをつらつらゆるゆると考察し続ける、ただそれだけなのに、ことごとくがツボをくすぐる。本文と長ーい注釈が併走(?)している構成も面白いし、何より滲み出る「あるある感」のオンパレードに、思わず頬が緩む。どうでもいいことばかり考えることで見えてくる真実もある。どうでもいいことばかり考えながら死にたいと思っている自分にとっては本書はバイブルになりそう。


5位:
ポジティヴシンキングの末裔 (想像力の文学)ポジティヴシンキングの末裔 (想像力の文学)
(2009/11)
木下 古栗

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ウンコしたりペニスしごいたりAV見たりする描写にどれだけ想像力を働かせ、過剰に語彙を尽くしているのかと半ば呆れつつも、この過剰さが病み付きになってしまった。淫猥でおバカでナンセンスで不条理な下ネタがスキあらばちらつき、文体はドライヴ感よりもクドさの方が強めだが、それもひっくるめてツボにハマる人ならとことんハマる。オナニー覚えたての中学生を文学的オブラートで包み込んで機関銃で蜂の巣にしてうっちゃったような印象。変な脳内汁ダダ漏れ読書体験。もう最低なのに最高。今後の括約、もとい活躍を応援したい作家さんである。


6位:
都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)
(2011/12/20)
チャイナ・ミエヴィル

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都市国家レベルでの「見て見ぬ振り」が厳格に行われている地域を舞台にしたスリップストリーム作品。文化様式の異なる二都市《ウル・コーマ》と《ベジェル》、まさに都市伝説的存在の第三の都市オルツィニー、違反行為を犯した者を連行する謎の組織<ブリーチ>、これらが複雑に絡む。一見して滑稽極まりない設定だけれども、作品構築の巧さに定評のある氏だけあって、存分に趣向を凝らして世界観を絶妙に描き出している。ミステリアスな書き口、不条理でファンタジックな味、全体を通して見えてくるSF的たたずまい、贅沢で読み応えのある仕上がり。


7位:
スターメイカースターメイカー
(2004/02)
オラフ ステープルドン

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主人公の精神が太陽系のみならず時空をも越え、様々な惑星や生命体の興亡を目の当たりにしながら、最終的に星々の精神との共棲体として、創造主<スターメイカー>へと迫る。徹底的かつ壮大な俯瞰視点の元、銀河の始源、そして終焉を描く破格のSF的・神話的・哲学的長編。驚異的なまでに豊かな想像力が飛翔して描かれる宇宙の神秘の数々は圧巻で、畏敬と驚嘆の念すら覚える。登場する幾多の生命体の中でも、「船人類」の設定と描写が特に印象深い。人間の想像力の果てしなき可能性を強く感じると共に、計り知れない感動と余韻に呑み込まれる。


8位:
蜜のあわれ・われはうたえどもやぶれかぶれ (講談社文芸文庫)蜜のあわれ・われはうたえどもやぶれかぶれ (講談社文芸文庫)
(1993/04/28)
室生 犀星

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爺さんと金魚の化身である少女のやりとりを中心に描いた「蜜のあわれ」はたまらない一編。会話文のみの構成でこんなにも官能的に魅せられるのかと思わずため息が出てしまう。エロティックなのだけれども、いやらしくなく、微笑ましさすら感じさせるエロさ。ぬるりと水に濡れた艶やかなイメージと裏表のない可愛らしさを併せ持った金魚少女のキャラクターが物語を引っ張っている。「尻の上で首を縊りたい」「美人はうんこまで美人」など、印象に残るセリフも多数。二人のやりとりに関わってくるキャラクターが「女性の幽霊」というのもまた面白い。


9位:
残虐行為記録保管所 (海外SFノヴェルズ)残虐行為記録保管所 (海外SFノヴェルズ)
(2007/12/14)
チャールズ・ストロス

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数学的魔術、宇宙的異生物、秘密組織、ナチスの陰謀入りオカルトSF。思わず「HELLSING」を想起したが、絵になるような派手なドンパチをやらかすわけでもなく、またシリアスさも薄め。だがスリルは十分ある。何より欲張りな設定とガジェット、数学・科学用語と皮肉まみれのやり取りには無闇にテンションが高まる。うだつの上がらない主人公の姿も相まってユーモラスな場面も多く、英国らしい味わい。続編エピソードはよりエンタメとして小慣れた感があり、これまた良い塩梅。上司アングルトンは実にいいキャラしている。もっとこのシリーズを読みたい。


10位:
風来忍法帖  山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)風来忍法帖 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)
(2011/12/22)
山田 風太郎

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「忍城水攻め」の史実の間隙を縫って丁々発止と繰り広げられる香具師忍法と風摩忍術の攻防が痛快にして凄惨な大傑作。美貌にして気丈な麻也姫、いつしか命を賭して闘いに身を投ずる漂泊の七人の香具師、それぞれのキャラクターが素晴らしく、最後まで物語を明るく彩る。そしてそれだけに、後半の風摩三人衆VS七人の香具師&くのいち七人衆の壮絶な死闘、その果てにあるラストの印象も一層際立つ。奇想忍法も盛り沢山で、忍法「風閂」のネーミングのカッコ良さも好きだが、個人的には無駄に合理的な「糞剣」も捨て難し。でも、「子宮針」は勘弁な。


11位:
蒸気駆動の少年 (奇想コレクション)蒸気駆動の少年 (奇想コレクション)
(2008/02/19)
ジョン・スラデック

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SF、ミステリ、ホラー、パロディ、風刺、再話、記入用紙(!)…と多岐に渡り、一発でドツボにハマるものもあれば、全くピンとこないものまで玉石混交。超個性派ホラ吹き作家スラデックの作風のクセの強さに面喰らいつつも、暴走した一台の車が次々と車両をファックする「ピストン式」、ループに陥り終わらない休暇を過ごし続ける「高速道路」、ハインラインのタイムパラドックスSFの名作「輪廻の蛇」の複雑骨折版パロディといった表題作(すごい力技!)はとても魅力を感じる。ねじれたユーモアという珍味。「奇才」の二文字がとても似合う。


12位:
シャンブロウ (ダーク・ファンタジー・コレクション)シャンブロウ (ダーク・ファンタジー・コレクション)
(2008/07)
キャサリン・ルーシル ムーア

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熱線銃を携え宇宙を股にかける男ノースウエスト・スミスが、異星の美女たちと出会い、翻弄されながら繰り広げる冒険譚。官能的で幻想的で、コズミック・ホラー的要素も強い、ファンタジックなスペースオペラ。緋色の髪と皮膚、緑の眼を持つ妖美な女との邪悪で官能的な体験を描いた「シャンブロウ」、緋色のショールが作り出す幻に囚われる「緋色の夢」、<暗黒>を父に持つ娘に幻惑される「暗黒の妖精」、全ての男達の憧れの化身たる美女と邂逅する「イヴァラ―炎の美女」など、妖しくも濃密なイメージの虜になるエピソードが満載。素晴らしい。


13位:
アイ・アム・オジー オジー・オズボーン自伝アイ・アム・オジー オジー・オズボーン自伝
(2010/08/02)
オジー・オズボーン、クリス・エアーズ 他

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濃密な読み応え。エピソードに事欠かないのと、共同執筆者による構成の上手さも手伝って、生ける屍と生ける伝説が同居するオジーの壮絶な生き様が余すところなく収められている。ハトやコウモリを喰ったお馴染みの逸話は勿論、ブラック・サバスの結成からヒットそして脱退、敏腕マネージャー&妻シャロンとの運命的な出会い、右腕ランディ・ローズとの出会いと別れ、家族との問題、ドラッグや酒や事故で何度も彷徨った死線、等々、富と名声と挫折と苦悩の怒涛の連続である。そんなオジーももうすぐ還暦。末永く長生きしていただきたいと心から思う。…トニー・アイオミへのイタズラのエピソードがどれもこれもヒドくて笑える(トニーにしてみればたまったものではないが)。他にも、フランク・ザッパとまずいステーキを喰いにいったり、ドラッグ中毒のリハビリの際に奇しくも同じ病室にいたエリック・クラプトンと意気投合したり、リック・ウェイクマンと冗談を言い合ったり(「リックはスピード違反でポリスに捕まって名前を尋ねられた時のために法律上の名前をミハエル・シューマッハに変えている」だとかなんとか)、などの各種お茶目なエピソードも満載である。


14位:
シャクチシャクチ
(2011/12/15)
荒山 徹

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これは滾る。アジア大陸版コナン・ザ・グレートなヒロイック・ファンタジーにして、血沸き肉躍る重量級時代小説。古代中国の重要な転換期に現れ、その身をもって全力で抗う筋骨隆々の超人的蛮人シャクチ。彼の豪快な言動に呼応するが如きストーリーの破格さ強靭さに一挙に引き込まれる。荒山作品お約束の朝鮮妖術は勿論、次々にブチかまされる数々の展開が悉くエンタメとして昇華されていて、痛快、痛快また痛快。参考文献にハワード、ライバー、ラムレイの著作が入っているのも納得。コナン・シリーズや骨太伝奇小説好きなら問答無用で読むべし!


15位:
トマス・ピンチョン全小説 LAヴァイス (Thomas Pynchon Complete Collection)トマス・ピンチョン全小説 LAヴァイス (Thomas Pynchon Complete Collection)
(2012/04/27)
トマス ピンチョン

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ポップで愉快なハードボイルド長編。たっぷりと散りばめられた、あの時代のポップ・カルチャーと小ネタによる情報量の多さと共にドライヴしてゆく感じはいつものピンチョンだが、過去のどの作品よりもとっつきやすく、読みやすいと感じた。LAコンフィデンシャルとマイアミバイスを足しました的な感じにも見える軽い響きの邦題も、ストーリーを最後まで読んだ後だと実にしっくりと馴染んでくるようになるからあーら不思議。さあ再読だ。


16位:
レ研-コングラッチュレイパー- (TENMA COMICS) (TENMAコミックス)レ研-コングラッチュレイパー- (TENMA COMICS) (TENMAコミックス)
(2011/09/26)
祭丘ヒデユキ

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「レ研」第三部。第一部からもう十年以上経っているというのに驚きを禁じえない。第一部、二部共に実用性度外視の規格外ギャグエロマンガだったが、この第三部でますます孤高の奇書めいてきている。例えるなら別位相のカーマ・スートラというか、もはや哲学の域に紙一重で到達せんとしているようにも思えてきた。複数本生えたふたなりペニスが蠢くエロシーンやら、ペニス型生命体(♀)をファックする展開やら、レ研シリーズと祭丘先生はこの先どこまで行ってしまわれるのか、見たいような見たくないような…KDK(くやしい、でも、期待しちゃう)。今年、完結編を収録した『高感度クリトリV』が出たが、そちらはまだ積んでいて読んでいない。楽しみ楽しみ。


17位:
シブミ〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)シブミ〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)
(2011/03/10)
トレヴェニアン

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シブミ〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)シブミ〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)
(2011/03)
トレヴェニアン

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<シブミ>の精神を秘めた最強の暗殺者ニコライ・ヘルの活躍を描く活劇小説。上巻では巨大組織の暗躍と、ニコライが岸川将軍や大竹七段との交流を通して、日本的精神の極地<シブミ>の思想を学んでゆく回想がメイン。著者の日本的精神への造詣の深さは確かなものを感じさせ、またエンタメ的スパイスを随所に散りばめつつも、文化に対する鋭い眼差しをニコライを通して注ぎ込んでもいる。その匙加減がとても心憎い。誤解曲解による「トンデモな日本観」が幅を利かす珍妙なB級小説群とは全く別の位相にある、真摯なエンターテインメント作品である。下巻では、巨大組織の強大なる支配力に相対するニコライ・ヘルの姿を描く。サバキ、ウッテガエ、ツルノスゴモリなど、各章のタイトルにもなっている囲碁の手筋に当てはめて対決の構図を見せる趣向がまた実に心憎い。手に汗握る洞窟探検、盟友ル・カゴの死、妾ハナとの官能的やりとり、そして巨大組織<マザー・カンパニイ>の幹部ダイヤモンドとの決戦など、スリルとサスペンス、官能と冒険がたっぷりと詰めこまれており、ニコライのキャラクターと絶妙に抑制された雰囲気も相まって、すっかりこの作品の虜になってしまった。奥深い味わいの傑作。


18位:
ラッキー・ワンダー・ボーイ (ハヤカワ文庫 NV)ラッキー・ワンダー・ボーイ (ハヤカワ文庫 NV)
(2005/09/09)
D・B・ワイス

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これはなんとも奇作。凌遅刑を描写した残酷小説にインスパイアされた伝説のゲームの幻のステージを求める主人公、各所で幅を利かせるレトロゲーの薀蓄じみた解説&考察の数々、現実と虚構の境が溶け合いグジャグジャになる展開、著者のゲームに対する情熱と狂気が主人公を通してオーバーフロー気味にドライヴする、最高にB級な味わいのゲームオタク小説であり、ある種のSFというか幻想小説としても読める(…かもしれない)。ゲームが現実を凌駕し、アダム青年は8bitの情景の最果てを幻視する。彼こそが究極のゲーム脳と言えるかもしれない。ルーディ・ラッカーの短編に、ゲーセンにいながら現実の地球を防衛してしまう『パックマン』という作品があったが、本作はそういう手合いの作品ではない。「懐かしゲーム満載のアメリカン・おたく・グラフィティ」というフレーズで読み手を釣るにはあまりにも業が深いのではないかと思えてくる。だがしかし、バカゲークソゲー好きの好事家は是非本作を読むと良い。個人的にはドンキーコングの解説のくだりが笑えた。「ポリーンは女のふりをした女の概念であり、多感なマリオの現実をドンキーとグルになって歪めている、ポリーンはドンキーの、ドンキーはポリーンの一部であり、ゆえに騙し方には同じ一面がある―つまり、堕落した世界。そこに私たちは生活しているというわけだ。」


19位:
後藤さんのこと (ハヤカワ文庫JA)後藤さんのこと (ハヤカワ文庫JA)
(2012/03/09)
円城塔

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「後藤さん」の四文字にゲシュタルト崩壊をおぼえるほどに、有象無象の後藤さん(性別:後藤さん)がワラワラしている、見た目もカラフルな表題作。銀河帝国にまつわる九十九の断章、ネタ帳、興亡史である「The History of(略)」。書き足され、入れ替えられ、区切られることでどんどん変貌を遂げていく言葉遊びをつらつらと展開していく「考速」。時間の流れをダイスの展開図にはめ込み、幾度となく繰り広げられる少年と少女の出会いを描く「墓標天球」の四編が好き。特に「墓標天球」の雰囲気と余韻は何度読み返してもたまらない。芥川賞受賞作の『道化師の蝶』や、亡き伊藤計劃氏の意思を継いで書き上げた『屍者の帝国』など、印象的なニュースと共に今年は円城塔氏の作品集が(文庫化も含めて)色々と刊行され、どれもこれもオススメしたいのですが、悩んだ末 後藤さんの文庫版をチョイス。氏の作品の中では比較的楽しめやすい部類ではないかと思います。


20位:
五大湖フルバースト 大相撲SF超伝奇 上 (シリウスKC)五大湖フルバースト 大相撲SF超伝奇 上 (シリウスKC)
(2012/02/09)
西野 マルタ

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五大湖フルバースト 大相撲SF超伝奇 下 (シリウスKC)五大湖フルバースト 大相撲SF超伝奇 下 (シリウスKC)
(2012/02/09)
西野 マルタ

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相撲がアメリカの国技となった近未来、奇病に蝕まれ<技の横綱>の地位だけでなく全てを失おうとしていた五大湖は、謎の女科学者の手によりサイボーグの力を手に入れ恐るべき脅威と化してしまった。彼の大暴走を止めるべく、永き眠りにあった伝説の横綱が覚醒、伝統の技と科学の粋が大激突を繰り広げる…!という超大味なプロットだが、西野氏のケレン味と力強さを兼ね備えた画風がストロングな説得力で迫る!また、ストーリーの根底にあるのは親子愛であり、意地であり、「強さ」への渇望である。その愚直なまでの王道ぶりに俺ぁ惚れた!ふくしま政美先生の激賞も納得です。