2013年5月23日木曜日

JOLLY『The Audio Guide to Happiness Part.1&2』(2011/2013)

Audio Guide to HappinessAudio Guide to Happiness
(2011/03/08)
Jolly

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Audio Guide to Happiness (Part II)Audio Guide to Happiness (Part II)
(2013/02/28)
Jolly

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 2006年に結成され、2009年にアルバムデビューしたニューヨーク出身の4人組プログレッシヴ・メタル・バンド JOLLYが、パート1、パート2と銘打ってInsideOutレーベルよりリリースした2nd/3rdアルバム。個人的にここ数年の動向が気になっているバンドの一つがこのJOLLYであります。デビューしてからまだ数年という新鋭でありながら、そのサウンドはかなり新人バンド離れしており、凡百のプログレ・メタル・バンドや昨今流行りのDjent系バンドとは一線を画する才気と熱い勢いを持っています。音楽性としてはヘヴィ・プログレ/オルタナ・プログレの部類に入ると思われますが、ヘヴィなパートはとことんヘヴィに、メランコリックなパートはとことんまでメランコリックにという姿勢をキープしつつも、画一的なサウンドに陥らないアレンジ・センスの巧みさは一聴に値するもので、同国のTOOLや、イギリスのPORCUPINE TREE、OCEANSIZE(解散しちゃいましたが)、スウェーデンのOPETH、ポーランドのRIVERSIDEなど、ヘヴィ・プログレ/プログレ・メタル的音像を追求しつつ、メインストリームへも寄ったスタイルのバンド群と肩を並べる可能性を秘めているといっても過言ではないと思っています(ちなみにJOLLYは、過去にRIVERSIDEと共にツアーを行っており、また、今年のRIVERSIDEの新作『Shrine Of New Generations』のリリースに伴うツアーのオープニング・アクトに抜擢されてもおります)。

 今回の作品は、アルバム2枚に渡って4つのガイダンス/4つのコンセプトを持ったフェイズで区切られており、各フェイズには4~5曲が収められているという構成。感覚的には前後編のアルバムを聴いているというよりは4枚のEPを聴いているといった方がしっくりきます『Part.1』では、ヘヴィな中にもテクニカルなミドルテンポチューン「Ends Where it Starts」でまずは小手調べといわんばかりにスタート。続く「Joy」は、イントロから号泣モノのドラマティックな旋律でアルバムでも一際度肝を抜くナンバー。ヴォーカルのアナデールの独特の浮遊感と艶のある声質と歌い回しが曲調の切なさを倍化させており、バンドの劇的な側面を象徴した1曲といえるキラーチューンといえます。ヴォーカルラインを立たせつつも、ヘヴィな押しとうねりも十分な「The Pattern」「Still a Dream」はストロングに練り込まれた高濃度の佳曲。トリッキーなパートも交え、ヴォーカルハーモニーとヘヴィネスが高次元で融合したオルタナティヴ・プログレ「Where Everything's Perfect」では、モダンな感性の漲りを感じさせてくれます。ゴリ押し一辺倒ではなく、引くところではキッチリと引くという駆け引きの巧みさも非常に心地良い。「Pretty Darlin'」「Storytime」など、ヘヴィなアンサンブルを後ろへ引かせて、甘さと湿り気を帯びたアレンジでヴォーカルを生かした歌もの曲も多く、適度にアルバム構成のガス抜きの役割を果たしているのも巧妙です。

 『Part.2』では、バンドが一体となって生み出される圧倒的なヘヴィネスがうねりを伴って有無を言わさず圧し潰す「Firewell」で、のっけから強烈極まりない衝撃を与えてくれます。「Dust Nation Bleak」では再び硬質なアグレッションを全開に叩きつけ…たかと思いきや、アコースティック・ギターがシンセを伴って美しいハーモニーを紡ぎ出すという、動と静の表情際立つプログレッシヴ・メタルを聴かせ、絶妙な引きに思わず息を呑まされます。また、楽曲のアレンジのヴァリエーションも大幅に増えているのが顕著に伺えるのも見逃せません。途中でレゲエ調の裏打ちリズムも顔を出し、醒めたニュアンスをたっぷりと含みこんだアナデールのヴォーカルが軽いトリップ感すら促す「You Against the World」をはじめ、エレクトロ調のビートを交えた「Aqualand and the 7 Suns」、キャッチーな曲調にポップなシンセのフレーズを人懐っこく絡ませた「Lucky」、バグパイプの音色を織り込みアンニュイな曲調にひと匙の哀愁を添える「As Heard on Tape」と、『Part.1』以上に独特のムード作りに踏み込んでいます。スウィートなサウンドも依然健在で、完全にオルタナ/ポップ・ロック調な「While We Slept in Burning Shades」は耳に馴染む素晴らしい浮遊感に満ちた魅力的な1曲です。曲名が示すが如くユートピアをイメージした夢想を誘う煌びやかなアレンジとシアトリカルな趣向が、ヘヴィなリフと渾然一体となって大仰なる大団円へと終息していく「The Grand Utopia」まで、一切の妥協なく聴かせます。

 細かなアレンジや構成にもしっかり気が配られた、重さと繊細さを併せ持った傑作アルバムです。是非とも二枚併せて聴いていただきたいと思います。ちなみに『The Audio Guide To Happiness Part.2』を購入すると、前作の『Part.1』を無料ダウンロードできる案内のペーパーが封入されているので、少しでもこのバンドが気になった方は迷わずパート2を購入しちゃいましょう。また、JOLLYは昨年アメリカを襲った"ハリケーン・サンディ"によりメンバーの家やレコーディングスタジオが大破、バンド活動にもかなりのダメージを負ったとのことで、ツアーに出るための資金的援助を公式サイトで現在呼びかけ中でもあります(現在は、当初の目標金額を達成した模様)。つい先日開催された、2013年度のRites Of Spring Festival(アメリカのプログレ・フェス)への出演も果たしたJOLLY。バンドの今後の活躍にますます期待がかかります。

まずはこの2曲から是非!




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