2013年6月23日日曜日

畑亜貴『棺桶島』『世界なんて終わりなさい』/月比古『弦は呪縛の指で鳴る』

棺桶島棺桶島
(1999/02/19)
畑亜貴

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 ファミコンの「ラグランジュポイント」やスーパーファミコンの「魂斗羅スピリッツ」「魍魎戦記MADARA2」、メガドライブの「ダイナマイトヘッディー」など、90年代にコナミやトレジャーの数々のゲーム作品の音楽制作に携わり、現在は数多くのアニメ/ゲーム作品に関わられているコンポーザー/アレンジャー/作詞家 畑亜貴さんの1stソロ・アルバム。タイトルの『棺桶島』は、モーリス・ルブランのアルセーヌ・ルパン シリーズの一作から取られたもの。シリーズの中でも伝奇/サスペンス色がことのほか強く、ほぼ全編に渡ってダークなトーンで覆われた異色の作品のタイトルをアルバムにしてしまうあたりからも、畑さんのこだわりが少なからず伺えます。90年代に「AKI BLAME AKI」というバンドで活動されていた畑さんが、ギタリストのMICKY(S.S.T.BANDの並木晃一氏)のサポートを得て制作された本作は、その内容から「破滅系プログレ」と称されていたようで、暗く透き通った音色を多用した打ち込み中心のサウンドで仕上げられています。ライブのオープニングに使われたスペイシーなインスト「天狼星」や、ミステリアスに後を引くヴォーカルに蟲惑される「棺桶島」「涙の木には叫ぶ花」、ワルツ調の「囚われる」、サディズム溢れるエレクトロ・ポップ「加虐」など、ゲーム・ミュージック/アニソンのテイストも少々匂わせつつも、じっとりと妖しくダウナーなムードが全体を覆っており、幻想・退廃・耽美なイメージを喚起させる詞と相まって、ディープな印象を与えるシンセサイザー・ミュージック。また、随所で聴ける並木氏のハードなギタープレイが刺激的な盛り上がりを与えており、雰囲気重視の楽曲に終始していないのもまたポイントでありましょう。まだ発展途上な所もありますが、既に個性は十分備えており、聴き所は多いです。上野洋子さんやALI PROJECTあたりの作品が好きな方にも是非。


世界なんて終わりなさい世界なんて終わりなさい
(1999/02/19)
畑亜貴

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 95年から96年に発表されたカセットテープ音源などに未発表曲を加えて99年にリリースされた2ndアルバム(また、同時期に『棺桶島』が再発されています)。打ち込み主体ですが、楽曲のヴァリエーションは『棺桶島』以上、独自の世界観にもさらに磨きがかかっています。"死"や"別離"といったイメージを喚起させて止まない詞が、煌びやかに躍動するプログレ・チューン「針の実」(ギターの熱演も素晴らしい)、80'sポップスの香り漂う「紀元前」、ファンク/フュージョン・タッチの「赤い蝋燭」、メロディが冷ややかな広がりを見せる「窒素揺れて」、ドラマティックかつ妖美なスロウ・バラード「海への眺めの」など、翳りを帯びたアンニュイなムードと、キャッチーなポップ・センスが程よくブレンドされたプログレッシヴな味わいの佳曲揃い。並木氏による冴えたギタープレイもさらにフィーチャーされています。また、前作ではライヴのオープニングとして使用された短めのヴァージョンが収録されていた「天狼星」「メソポタミア」ですが、本作ではさらなるアレンジが加えられたフル・ヴァージョンで収録されております。後に月比古でリメイクされる楽曲も多数収録されており、両作品を聴き比べてみるもまた一興ではないでしょうか。そして本作を語る上で外せないのが、ラストを飾る表題曲。希望に満ち溢れた荘厳なアレンジの中で、"何処にも行けずに流れるだけの 世界なんて終わりなさい" "消滅して又蘇るより 世界なんて終わりなさい"と歌われる、色んな意味で終幕にふさわしい1曲であります。破滅もまた一種の救いなのではないか、この曲を聴いていると思わずそんな気にもさせられてしまうのです。


弦は呪縛の指で鳴る弦は呪縛の指で鳴る
(2005/09/22)
月比古

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 コンポーザー/アレンジャー/作詞家として多岐に渡る活躍をされている畑亜貴さんが、自身の中に秘める退廃・耽美な世界観を内包した音楽性を展開するプログレッシヴ・ロック・バンド、月比古(つきひこ)の1stアルバム。バンドメンバーには並木晃一氏(g)や林克洋氏(kbd)といったS.S.T.BANDのメンバーや、プログレッシヴ・ハード・ロック・バンドSTARLESSの堀江睦男氏(dr)の名前も見られます。ソロ時代は打ち込みがメインだったゆえにサウンドの弱さが否めませんでしたが、バンド編成になったことにより大幅にグレードアップ。楽曲構成もより複雑・重厚になり、耽美幻想文学的なシンフォニック・プログレ・サウンドを追求しています。ディープな雰囲気を紡ぎつつも、いたずらにその中に埋没してしまうようなことはなく、メリハリの効いた仕上がり。バンド・アンサンブルは耽美なメロディを支えつつも、各人がしっかりと存在感を示しています。並木氏によるアラン・ホールズワースばりにシャープなジャズ・ロック系ギタープレイは出色。冒頭から鳴り響くメロトロン・サウンド(弾いているのはかの安西史孝氏であります)で幕開け、スロウテンポのアレンジによりねっとりとした情感が絡みつく「メソポタミア」、より劇的な展開に生まれ変わった「天狼星」など、過去のソロアルバムの楽曲のリメイクも非常に感慨深い仕上がりです。並木氏のささくれ立ったギタープレイが際立つ「琥珀」「窒素揺れて」、たっぷりとインタープレイを聴かせる長曲「無期灼熱」など、リメイク曲&濃厚なプログレ曲が続く中盤以降は特に必聴。傑作。


畑亜貴 - Wikipedia
AKI HATA†髑髏城