2014年12月29日月曜日

豊饒なる大地のイメージを喚起させる、民謡とエレクトロ・ミュージックの幸福な融合 ― 茜 -AKANE-『茜道中譚 / Journey』(2014)



 

コンポーザーの小林早織さんとヴォーカリストの高橋由美子さんのふたりの女性を中心として2003年に結成された、民謡/エレクトロ・ミュージック/ワールド・ミュージックを縦断した“エストロニック・ミュージック”を展開する音楽ユニット〈茜-AKANE-〉の2ndアルバム。テクノ・ポップ/ニューウェイヴのフィールドでは、元パラペッツの山田カズミ氏が率いるメテオールや、元GRASS VALLEY~P-MODEL~〈鴉〉の上領亘氏がプロデュースするNeoBalladなどが、民謡とニューウェイヴを独自のセンスで融合させたユニークな音楽性を展開しておりますが、この〈茜 -AKANE-〉はゲーム・ミュージックのフィールドから登場したユニットです。小林さんは「AZEL -パンツァードラグーンRPG-」「パンツァードラグーンオルタ」や、パンツァードラグーンシリーズの制作スタッフが手がけ、今年9月に配信されたXbox One用ソフト「Crimson Dragon」のコンポーザーであり、十代のころから民謡の素養を育んできたという高橋さんはゲームソフトの企画やデザインを手がけてきた一方で、植松伸夫氏の企画によるオムニバスアルバム『TEN PLANTS』(1998)や、コナミの「幻想水滸伝II」(1998)などの楽曲でヴォーカル/コーラスでの参加歴もあるというマルチクリエイター。また、同ユニットは各国のクリエイターが集い、楽曲のワールドワイドな発信に力を入れているゲーム・ミュージック制作プロダクション「Brave Wave」に所属しております。なお、小林早織さんはソロアルバムの発表を2015年に予定しており、そちらも見逃せないところです。今年5月にリリースされたコンピレーションアルバム『In Flux』に、小林さんの楽曲"Shattered Moon"が収録されております。




 

「パンツァードラグーン」シリーズでは無国籍なシンフォニック・サウンドを展開していた小林さんですが、〈茜-AKANE-〉ではサウンドの核にある力強さはそのままに、日本民謡をベースに多彩なエッセンスを散りばめたものになっております。朗々と響く高橋さんのヴォーカルと重厚なコーラスに彩られた楽曲は四季の風情すら感じさせる仕上がり。2007年に自主リリースされた1stアルバム『こちゃへ』(2010年にdogearrecordsより配信リリース)は、電子打楽器奏者であるMASAKingこと鈴木正樹氏とのトリオ編成で、オリジナル曲のほか、"秋田長持唄" "秋田大黒舞" "ソーラン節"といった民謡のアレンジも含むものでした。本作『茜道中譚 / Journey』はアルバムのためのオリジナル曲はもちろんのこと、民謡"本荘追分" "南部牛追歌" "八木節"のアレンジに加え、「Crimson Dragon」のメインテーマである"Dragon's Journey"、Windows Phone用アプリ「Crimson Dragon: Side Story」のテーマ"遥かなる翼"、そして「サクラノート ~いまにつながるみらい~」(2009)のエンディングテーマ"きみと走るとぼくは泣く / Machi"(作詞:野島一成/作曲:植松伸夫)も収録し、ここ七年間の活動を総括する内容にもなっています。また、"怪談「七草坊主と七尾の狐」 / Kaidan" "ピリカ / Pirika"の二曲は、2008年ヴァージョンからリメイクが施されております。美しきリンゴが実ったと伝えられるアヴァロン島と、豊饒なる津軽の大地が二重写しになるかのような、ジャパネスクとケルティックな風情が入り混じる"りんごの島 / Avalon"、8分に及ぶストーリー仕立ての大曲"怪談「七草坊主と七尾の狐」 / Kaidan"は、本作の白眉といえる楽曲でしょう。ボーナス・トラックではユニット自身による"Dragon's Journey"のピアノ・ミックスのほか、「Nuclear Throne」「Luftrausers」などのサウンドに参加したフィンランドのゲーム・ミュージック・コンポーザー KozilekことJukio Kallioによる"りんごの島 / Avalon"のリミックス、「メタルギアソリッド4」「ベヨネッタ」などのコンポーザーのひとりであり、ヘヴィ・チェンバー・ロック・バンド Happy Familyのギタリストでもあるイズタニタカヒロ氏による"ピリカ / Pirika"のリミックスをそれぞれ収録(また、イズタニ氏は自身のユニットであるDUGOのデビューアルバムを、Brave Waveよりリリースすることがアナウンスされています)。一枚のアルバムに実り豊かな大地のはるかなるイメージが表現されており、「旅を続ける音楽ユニット」として、さらなる実りをもたらしてほしいと願ってやみません。



Brave Wave Production
「小林早織さんとの会話」 - Brave Wave Production