2015年1月24日土曜日

フロリダの夫婦ユニットが80年代に残した珠玉のニューエイジサウンド ― EMERALD WEB『The Stargate Tapes』(2013)

Stargate TapesStargate Tapes
(2013/11/26)
Emerald Web

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コレクターのツボをくすぐるナイスな発掘音源のリリースに定評のあるイギリスのFINDERS KEEPERS RECORDSより2013年にリリースされた一枚。70年代末から80年代にかけて精力的に活動を展開していた、フロリダのアンビエント/ニューエイジ ユニット エメラルド・ウェブの初期の音源を中心に収録したコンピレーションCD。ユニットの中心人物であり、おしどり夫婦としても長らく活動を共にすることになるBob StohlKat Eppleが出会ったのは70年代初頭。彼ら夫婦はニューエイジ・ミュージックの黎明期より神秘的なムードの電子音楽作品を自己のレーベル「Stargate」より発表していました。1979年にデビューアルバム『Dragon Wings And Wizard Tales』をリリース、当時はアーシュラ・K・ル=グウィンのファンタジー作品から強く影響を受けていたようで、アルバムタイトルからもその片鱗がうかがえます。本CDはその1stアルバムからの楽曲を筆頭に、1980年リリースの『Whispered Visions』『Sound Trek』、1981年リリースの『Valley Of The Birds』、1982年リリースの『Aqua Regia』、そして1988年の『Dreamspun』からそれぞれ1~3曲ずつ選曲された全14曲。初期のカタログはいずれもカセットリリースだったため、ほとんどの楽曲がCD初収録となります。ときに幻想的で、ときに煌びやかなシンセサイザー・サウンド(主力のひとつが、ウインド・シンセサイザーのLyricon)はもちろんですが、夫婦はふたりとも元々フルート奏者であるため、全編にわたってフルートが幽玄な趣を添えております(たまに尺八のようなドープなプレイも聴かせます)。



"Photonos""The Dragon's Gate"などの曲からは、意識的なものなのか、それとも偶然なのかはわかりませんが、クラウト・ロック/ジャーマン・エレクトロに通じるセンスも感じさせ、TANGERINE DREAMやVANGELIS、DEUTER、東祥高といったシンセサイザー・アーティストと共鳴するところも多々見受けられます。また、1stアルバム収録の"Chasing Of The Shadowbeast"は、初期KING CRIMSONやCAMELにも通じる…というか、それらを手本にしたのでは? というくらいに叙情的な構成のプログレッシヴ・ロック志向な一曲で、このユニットにしては珍しいことにギタリスト(×2)、ベーシスト、ドラマーを迎えてのバンド編成で録音されているというところもポイントです。東洋的情緒を含んだメディテーショナルな"Openings"や、鐘やビンを打ち鳴らし、どこかエキゾチックにも感じる実験的な小品の"Doppler Bells 1"、Katのヴォーカルが儚げに響いたかと思ったらスペイシーな方向へを舵をきる"Flight Of The Raven"、スティーヴ・ライヒ的なミニマル・ミュージックといった感もある"Stepper"など、単一のイメージでとどまらない音楽性を持っていたところも興味深く、また魅力的なのです。



1986年にリリースしたアルバム『Catspaw』がグラミー賞にノミネートされるなど、ユニットとしての作品発表の一方で、テレビや映像作品、企業プロモーションなどの音楽制作も手がけており、ナショナル・ジオグラフィックやCNN、アップル・コンピュータやNASA、そして天文学者でSF作家であるカール・セーガンの企画によるドキュメンタリーなどに楽曲を提供していたそうです。1990年にBobが夭折、ユニットとしての活動は終わりを告げますが、悲しみを乗り越え、Katはその後もソロ・アーティストとして精力的な活動を現在まで続けており、エミー賞をこれまでに八度にわたり受賞しているほか、数十枚ものアルバムを発表しています。ちなみに、デヴィン・タウンゼンドが2011年にリリースしたドリーミーなアンビエント・アルバム『Ghost』でフルートやウッドウインドをプレイしているのが、ほかならぬ彼女です(ライヴにも参加)。




http://www.katepple.com/

Emerald Web Kat Epple and Bob Stohl
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