2015年7月21日火曜日

ノスタルジーとオリジナルの融合、チップチューンの名作 ― Shnabubula『SNESology Special Edition』(2015)

 アメリカのchiptuner、ShnabubulaことSamuel Ascher-Weissの名作『SNESology』が、さる六月末にスペシャル・エディションと装いを新たにして氏のbandcampに再アップされました。同アルバムは、ゲーム音楽リミックス投稿サイト「OverClocked ReMix」界隈を中心とした不特定多数のコンポーザーが、スーパーファミコン音源を駆使してカヴァーやオリジナル曲を制作するプロジェクト「SNESology」の企画趣旨にのっとってShnabubula氏が制作した楽曲を収録したアルバムです。2012年に全10曲収録でリリースされ、その後、2013年にトータル20分以上の新規トラックを8曲追加収録して再リリースされました(現在は両ヴァージョンとも削除されています)。再々リリースとなる今回のスペシャル・エディションでは、新たに2014年制作の2曲"Fun Saber" "Grape Kid"に、2012年録音のピアノソロヴァージョン3曲を追加収録した全23曲。もちろん今回も name your price(投げ銭)でダウンロードが可能です。





『SNESology』は単なるカヴァーアルバムではなく、名作SFCソフトのサウンドフォントを駆使した、オマージュをたっぷりと込めたオリジナル曲集というのがミソ。元のゲームに紛れ込んでいても違和感のないつくりなのです。使用しているタイトルを挙げると、「スーパーマリオワールド」「悪魔城ドラキュラ」「ファイナルファンタジーVI」「スーパーマリオカート」「ガイア幻想紀」「魂斗羅スピリッツ」「天地創造」「ロックマンX」「Run Saber(日本未発売)」「聖剣伝説2」「Secret of Evermore(日本未発売)」「クロノトリガー」「ストリートファイター2」「MOTHER」といったところ。サウンドフォントの特性がよく出ているものとしては、「スーパーマリオカート」の音源を駆使した"At The Races" "Ready Set..." "Golden Corridor"でしょうか。スティールパンやホイッスルの響きを活かしたトロピカルなムードで仕上げられています。また、Shnabubula氏はかなりの凝り性で知られる人なので楽曲構成がかなり練られており、フュージョン/プログレッシヴな要素が強いのも特徴です。「悪魔城ドラキュラ」のサウンドフォントによる"Darling Escape"や、「魂斗羅スピリッツ」のサウンドフォントによる"Infiltration"、複数タイトルのサウンドフォントを惜しみなく投入した"SNESology"などは圧巻のプログレ・チューン。また、収録曲のなかで"I Dreamed a Dream"は「レ・ミゼラブル」の劇中曲のカヴァー。これをFFVIの「オペラ」のサウンドフォントでカヴァーするという趣向がなんともニクいです。聴き手がプレイしたゲームへのノスタルジーを喚起させつつ、オリジナル曲としてもバッチリとした聴き応えをもたらしてくれるという、なかなか味わえない感触があります。すでに知っている人も、そうでない人も、ぜひ聴いてみてはいかがでしょうか。

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※カッコ内は使用サウンドフォントの元ゲームタイトル
※☆は2013年版の追加曲
※★は2015年版の追加曲


01. Adventures in Dinosaur Land (スーパーマリオワールド)
02. Daring Escape (☆悪魔城ドラキュラ)
03. Across The Plains (ファイナルファンタジーVI)
04. At The Races (☆スーパーマリオカート)
05. The Story Begins (ファイナルファンタジーVI)
06. Stonehenge (☆ガイア幻想紀)
07. Ready Set... (スーパーマリオカート)
08. Infiltration (魂斗羅スピリッツ)
09. A Solemn Decision (天地創造)
10. Static Lobster (☆ロックマンX)
11. Fun Saber (★Run Saber)
12. A Cry of Joy and Sadness (天地創造)
13. Evermore Densetsu (☆聖剣伝説2/Secret of Evermore)
14. Riverlands (天地創造)
15. Golden Corridor (スーパーマリオカート)
16. Hands of Fate (クロノトリガー/ファイナルファンタジーVI/天地創造)
17. Billy Mitchell's Stage (☆ストリートファイター2)
18. I Dreamed a Dream〔「レ・ミゼラブル」より〕 (☆ファイナルファンタジーVI)
19. Grape Kid (★MOTHER)
20. SNESology (☆複数タイトルのアラカルト)
21. Across The Plains〔★ピアノソロヴァージョン〕
22. A Solemn Decision〔★ピアノソロヴァージョン〕
23. Ready, Set...〔★ピアノソロヴァージョン〕


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http://snesology.tumblr.com/


 以下はおまけ。そのほか、サウンドフォントを駆使したアルバムをいくつかご紹介。

■「ロックマンX」のサウンドフォントを使用した、各種ゲーム音楽カヴァーアルバム、その名も『Mega Man XA』。アレンジはJormungandことJoe Schwebke氏。ゲーム版「ガングレイヴ」の曲をカヴァーする人は初めて見た気がする。フリーダウンロード。




■「スーパーマリオワールド」のトリビュートアルバム。しかしBGMのカヴァーではなく、ゲームと同じサウンドフォントを使い、ゲームの世界観をオマージュしての完全オリジナル曲集というやたら気合の入った内容。つまり、近藤浩治氏トリビュートでもある。「ヨッシーアイランド」のトリビュートと同時リリースされているので、ダブルトリビュートコンピレーションアルバムというコンセプトでもある。投げ銭でダウンロード可能。





■要注目の一枚。ロシアのUbiktuneから2012年にデビューアルバムをリリースしたコンポーザー fluidvoltの3年ぶりとなる新作アルバム『Clay Memory』。「MOTHER 3」の膨大なサウンドフォントを駆使し、ワビサビに想を得た複合的チップチューンを奏でる。





Shnabubulaのゲーム音楽ピアノカヴァー ライヴストリーミング「VGMCAST」のベストセレクションが登場