2016年1月7日木曜日

ミシェル・ウエルベックの唯一のソロアルバム ― Michel Houellebecq 『Présence humaine』(2000)

服従
服従
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ミシェル ウエルベック
河出書房新社
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 2015年9月には最新刊『服従』が邦訳刊行され、同年10月には『プラットフォーム』 『地図と領土』の文庫版、今年1月には『ある島の可能性』の文庫版がそれぞれ刊行されるなど、ここ日本でも昨今とみに注目を集めるフランス随一の喰えない作家 ミシェル・ウエルベック(ウ“ェ”ルベックに非ず)。読んでいて心底いけすかねえと感じるのだけれども、気づけば読んでしまう。魅力というには心情的にはばかられるのだけれども、なにもかもに醒めているがゆえの吸引力がある、まったくクソッタレなおじさんです。彼の作品のオーディオブックは多数リリースされているのですが、実はひっそりと音楽アルバムをものしており、それが2000年にリリースされた本作『Présence humaine』。ウエルベックのソロアルバムとしては、現時点で唯一の作品です。CDは現在中古市場でプレミアと化してしまっているのですが、音源だけであればiTunesやAmazon mp3で買えます。後者ではアルバムダウンロード600円と、非常にお求め安いのです。


Présence humaine
Présence humaine
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Tricatel (2011-01-10)
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https://itunes.apple.com/jp/album/presence-humaine/id408880311


 ウエルベックはヴォーカル、というよりはほとんどナレーションというスタイルで吹き込んでいます。バックのサウンドは基本的にエレクトリック・スタイル。全編に渡ってオルガンは効いているし、ドラムはけっこうせわしない。ロックの皮をかぶったシャンソンで、シャンソンの皮をかぶったロックという印象で、ここでも「喰えない」感じ。アルバム冒頭のタイトル曲で、プログレッシヴ・ロック・バンド HELDONのリシャール・ピナスがギターで参加しているところはちょっとしたトピックでしょう。そもそも若かりし頃にドゥルーズやリオタールのもとで学び、シャンソンへの造詣も深いピナスが参加しているというのは、なんというかごく自然に納得できるものがあるなと思いました。ノイジーな度合いの増す後半のギターソロはなかなかピナスらしい。



 また、作曲面ではシンガー/コンポーザー/プロデューサーなど多岐に渡る活動で知られ、ニコラ・ゴダンとジャン=ブノワ・ダンケルのユニット AIRのワールドツアーのサポートメンバーをつとめ、かの香織、カジヒデキ、カヒミ・カリィのアルバムなどへも参加歴のあるベルトラン・ブルガラが全面的に手がけております。彼は過去にウエルベックの『プラットフォーム』のオーディオブックの音楽も担当されているほか、本CDのリリース元である「Tricartel」は、彼が主宰するレーベルでもあるのです。同レーベルからはほかにエイプリル・マーチ(タランティーノの「デス・プルーフ」の挿入歌でも知られるシンガーソングライター)のアルバムや、ブルガラとロバート・ワイアットの共演シングル盤などもリリースされております。ちなみに、Tricartelの公式YouTubeアカウントでは『Présence humaine』の全曲がアップロードされてもいます(上のYouTubeプレイリストがそれです)。また、本作の同年にはブルガラ自身のソロアルバム『The Sssounf of MMMusic』もリリース(国内盤が東芝EMIから出ていました)。なるほどウエルベックを手がけたのもさもありなんという、あの人にしてこの人ありといったユニークなエレクトロ・アヴァンギャルド・ポップを満載した同作を引っさげての来日も2000年10月に果たしております。


The Sssound of Mmmusic
The Sssound of Mmmusic
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Bertrand Burgalat
EMI Import (2001-09-18)
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バンドを従えてTV番組でパフォーマンスを披露するウエルベック。2001年ごろ。


Aubert Chante Houellebecq
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 ウエルベックのそのほかの音楽的活動(?)では、2007年にリリースされた『Etablissement D'Un Ciel D'Alternance』で、音楽つき朗読CD『Le sens du combat』(1996)に音楽担当で参加していた実験音楽家のジャン・ジャック・バージと再度コラボレーション、両作品とも、アヴァンギャルドなスポークンワードとでもいうような趣向の内容で、かなり不穏なテイスト。また、フレンチ・ロック・バンド Telephoneの元メンバーであるジャン・ルイス・オベールが2014年にリリースしたアルバム『Aubert chante Houellebecq(オベール、ウエルベックを歌う)』で、ウエルベックとコラボレーションを行っております。







プラットフォーム (河出文庫)
ミシェル ウエルベック
河出書房新社
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地図と領土 (ちくま文庫)
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ミシェル ウエルベック
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ある島の可能性 (河出文庫)
ミシェル ウエルベック
河出書房新社 (2016-01-07)
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