2016年7月23日土曜日

「シンガーソングイラストレーター シマダソウジ」、唯一のソロアルバム ― シマダソウジ(島田荘司)『LONELY MEN』(1976)

「僕にしかできない仕事を、僕はやりたいんですよ。解るでしょう?」
「はあ……。レコードなんて、入れないんですか?」
「昔、作ったことありますよ」
「いつ頃です?」
「ずいぶん昔。もう忘れちゃったな。マクラフリンがまだジャック・ブルースとセッションやってたりしてた頃ですよ」

(島田荘司「疾走する死者」(『御手洗潔の挨拶』収録)より)




〈御手洗潔〉シリーズ、〈吉敷竹史〉シリーズの生みの親にして、日本の本格ミステリシーンの牽引者。現在も精力的に作品を発表し続けている作家、島田荘司氏。1981年に講談社から刊行された『占星術殺人事件』で本格的に作家デビューを果たす氏ですが、20代の頃は運転手、イラストレーター、ライター、ミュージシャンなど、さまざまな顔を持っていました。本作は1976年10月、島田氏が28歳を迎えたばかりの頃にポリドールからリリースされた、シンガーソングライター「シマダソウジ」としての唯一のソロアルバム。「SINGER SONG ILLUSTRATER SOUJI SHIMADA」の文字が目立つジャケットイラストも、島田氏の筆によるものです。さらに、作詞、作曲(半分は「サン」こと三谷光男氏と共作)、編曲(ストリングスアレンジふくむ)も手がけ、ヴォーカル/コーラス、ギター、そしてメロトロンの演奏も担当されています。ゲストミュージシャンでブレッド&バターや、同デュオのアルバムやライヴに参加されていた松島通昭氏や松永進氏、菅井義男氏の名前があるのもポイント。ブレッド&バターの二人は、メロウな風が吹き抜ける冒頭曲"LONELY MEN"のほか、ラグタイム風の演奏でノる"ラジオは唄う"、ビターなブリティッシュ・ポップ調の"一人で"の3曲で、あの美しいコーラスハーモニーを響かせています。また、タメの効いたヴォーカルで「根性、根性さ」とド直球なメッセージを歌い上げるファンキーなブラスロック"根性さ"や、スワンプ・ロックな"君は最高"、レゲエなムードの"もう君に夢中"はゴキゲンなナンバーですし、ストリングスアレンジをバックに歌い上げられる"熱い季節" "青春の頃"はさながらTHE MOODY BLUESみたいな趣。詞はラヴソングが多いのですが、"青春の頃" "地下鉄のカベに"からは、当時の島田氏のじりじりした感情の一端がうかがえるようにも感じます。




 オリジナルのレコードジャケットの裏では若かりし頃の島田氏の写真(ポーズをキメていたり、馬に乗っていたり)が載っていましたが、南雲堂から1995年にリリースされたCD再発盤ではかなり簡素なつくりになっており、歌詞カードとクレジットが記載された一枚紙が入っているのみです。せっかくの島田氏のジャケットイラストの上に南雲堂の住所と電話番号がクッキリと載っていたり、デザイン的にもちょっと残念なのですが、音楽関係の取り扱いのない出版社から自主制作盤のような形でリリースされたものである上、さすがに若い頃の写真まで改めて掲載するのは島田氏にとって気恥ずかしさがあったであろうことは想像がつくので、致し方ないでしょう。入手は大変ですが、レコードで探してみるのも一興だと思います。本作以外での、70年代の島田氏の音楽活動についてはあまり多くはわからないのですが、ヒカシューの前身バンド(プレ・ヒカシュー)のメンバーであり、民俗楽器奏者/民俗音楽研究者の若林忠宏氏が、高校時代に島田氏のロックバンドでシタールやタブラを弾いていたということが、若林氏本人の記述から判明しています。
http://www.musiqasangeet.com/gate.html


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SOJI SHIMADA『LONELY MEN』
LP [MP-3019|ポリドール|1976.10.21]
CD [DCI-26566|南雲堂|1995]

01. LONELY MEN
(作詞:ソウジ/作編曲:ソウジ&サン)

02. 根性さ
(作詞:ソウジ/作編曲:ソウジ&サン)

03. 熱い季節
(作詞:ソウジ/作曲:ソウジ/編曲:ソウジ&サン)

04. ラジオは唄う
(作詞:ソウジ/作編曲:ソウジ&サン)

05. 街を呪うこともなく
(作詞:ソウジ/作曲:ソウジ/編曲:ソウジ&サン)

06. 青春の頃
(作詞:ソウジ/作曲:ソウジ/編曲:ソウジ&サン)

07. 君は最高
(作詞:ソウジ/作曲:ソウジ/編曲:ソウジ&サン)

08. もう君に夢中
(作詞:ソウジ/作曲:ソウジ/編曲:ソウジ&サン)

09. 一人で
(作詞:ソウジ/作曲:ソウジ/編曲:ソウジ&サン)

10. 地下鉄のカベに
(作詞:ソウジ/作曲:サン/編曲:ソウジ&サン)


All Songs Written by ソウジ
Composed by ソウジ(③⑤~⑨)、ソウジ&サン(①②)、サン(⑩)
Arranged by ソウジ&サン
Strings Arranged by エジソン&ソウジ

《Musicians》
ソウジ【島田荘司】(vocal, ovation guitar, mellotron, chorus)
サン【三谷光男】(gibson s.g. fender telecaster, mellotron, chorus)
松島通昭(drums, chorus)
松永進(fender precision bass, chorus)
菅井義男(percussions, chorus)
エジソン【渡辺孝好】(keyboards)

《Guest Players》
ブレッド&バター(chorus)①④⑨
篠原仁志(ヒトシ)(gibson les paul)
モグ(小倉秀一)(fender precision bass)

《Productive Staff》
ソウジ&サン(producer)
塚越一己(director)
伊藤昭男(engineer)
ソウジ(art direction & illustration)
腰山一生(recording manager)
寺本幸司(executive producer)













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“ずっと音楽が大好きで、20代はほぼ音楽中心の生活を送っていたんです。音楽活動ってお金がかかるし、人間関係も面倒くさいんですよ。レコードを出してもらえたこともあって、そろそろ一人で活動できることをやりたいなと思うようになったんです。”

《ダ・ヴィンチ》2016年6月号 島田荘司ロングインタビューより)


“一九七八年十月十二日の誕生日が来て、それまでやっていたイラストレーションや雑文の類の仕事を、すべて断った。しかしどうしても断わりきれないものがずるずると残ってしまい、ようやく小説を書きはじめられたのは、年が明けた一月二十六日深夜になった。”

(島田荘司「異邦の扉の前に立った頃」(『異邦の騎士』巻末)より)